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  10 ,2020

徒然叢

つれづれと記される雑記ばかりのブログ。たま~に執筆していたりします。

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Category: MistySpell

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ユキノシタ 5話

「その、家が……ないんです」
 先ほどの表情とは一転して、悲愴感を漂わせる。暗く、重い空気と共に。今まで見てきた彼女は作られたものではないか。そんな考えすら浮かんでしまう。
 どうやら俺は失態――使い古された言葉で言えばパンドラの箱を開けてしまったようだ。開けてしまったが最後、様々な悪が外へと飛び出してしまう。彼女の暗い表情や今にも泣き出しそうな顔が全てを物語っている。最後には希望が残ってる、みたいなパンドラの箱の物語そのもののように行けばいいのだろうが、この状況からしてまずありえないだろう。
 麗音が目配せをしてくる。わかってる。俺が悪い。だからこの状況を打開するのも俺の仕事。でも、なんて声をかければいいんだ。
 しかし考えるまでも無く雪姫ちゃんは言葉を紡ぎはじめた。
「あのですね、わたしの家差し押さえられてしまったのですよ。お父さんが借金してしまったみたいで……」
 朝起きたら家の全てを差し押さえられたこと、家にはもういることが出来なくなったこと、その後結局路頭に迷ったこと。今までの鬱憤を晴らすかのように止まる事無く一気に吐き出す。俺と麗音はそれを黙って聞くだけ。たまに相づちをうって、親権に彼女の声に耳を傾ける。
 人生相談なんてガラじゃない。社会人とはいえ、人の悩みを聞いてやれるほど人間が出来てるとも思わない。幸せでもない。どちらかといえば不幸の類だ。
 半年前、両親が亡くなった。親父のあとを継ぐ為に始めた見習いも、おかげさまで一城一国の主に特進。望んだわけじゃない。出来れば親父から全てのことを学び、盗み、超えてからあとを継ぎたかった。でも親父はもういない。元気だけがとりえだった親父はお袋と共に事故で亡くなった。そして今、俺は『楽々』の料理長として働いている。正直店の経営がここまで大変だなんて思ってなかった。やることがありすぎて目まぐるしくすぎていく毎日。自分の時間なんてどこかへ行ってしまった。赤字と黒字すれすれの経営。両親がいたときはもっと黒字だったはずなのに。自分の不甲斐無さが浮き彫りになってる気がした。
 でも……彼女のそれもまた冗談としてしか取れないほど重い。まだ年端も行かぬ少女の不幸。住むところを差し押さえられ、行く当ても無い。本当の意味で彼女を助けられる人なんているのだろうか。
 生き難い世の中だ。いつも弱者は迫害され、 保障してくれるものなんてどこにもない。自由と平等? そんなの恵まれたやつらが言い出した偽善だ。この世の中には平等なんて無い。どこもかしこも不平等だらけ。生まれた時点で優劣が決まる。それが現実。なんて夢の無い現実。
 雪姫ちゃんの話が全て終わる。長かったような気がするが、時計を見ればたったの5分弱。それだけ神経を研ぎ澄ませていたのだろう。
 しんとした店内。今にも雪の音が聞こえてきそうなほど。窓の外に降り続いている雪は止む気などあるのだろうか。
「その……両親は? 」
 そう聞くも彼女はただ首を横に振るだけ。どうやら両親の所在も不明らしい。夜逃げか、蒸発か、それとも……これだけは考えない方がいい。そんな現実、小説とかでありふれすぎてて――辛すぎる。
「でも、お二人が助けてくれて本当に助かりましたです。あのままだったらわたし、明日にはマッチの無いマッチ売りの少女の最後を迎えるところでしたから」
 彼女は無理して笑うが、そのネタは全然笑えない。リアルすぎる。
「お金とかないので恩は返せそうに無いのですけれど……その、本当にありがとうございますです」
 彼女のあまりにも真摯な態度に俺たちは顔を見合わせる。なんて答えればいいのかわからないのだ。こういうときに自分の不器用さが嫌になる。スマートに生きたいとは思わないが、必要最低限の器用さは欲しい。妹の麗音には備わっているみたいだが。
「よしっ!! 」
 何に気合を入れたのかわからないが、麗音はパンと手のひらを叩く。その音で俺と雪姫ちゃんは視線を麗音へと向けた。
「暗い話はこれくらいにしてさ。ご飯食べない? クソ暑い暖炉の前の席だからシチューもまだ熱いし。何より温かいうちがおいしいじゃない。お兄ちゃんの料理の腕でも」
「いっとけ。あとな、もう少し綺麗な言葉を使え」
 さすがは麗音。先ほどまでの淀んだ空気を一掃した。まだ多少重苦しい空気は残っているものの、先ほどに比べればまだマシ。普通に食事を出来るレベルの和やかさだ。
「ほらほら、雪姫ちゃんも食べて食べて。このシチューはね、お兄ちゃん自慢の一品なんだから。よ~く煮込んだ牛タン入りなの。これだけは自信持ってお客さんに勧められるんだから」
 その言い方だと俺の作った他の料理は人に勧められないみたいだ。一応料理人なんだけどな。
「じゃあ、あの……いただきます」
 おずおずとテーブルの上にあるスプーンに手にし、ゆっくりとシチューに口をつける。
「おいしぃ……」
 感嘆のようなその言葉に俺自身に嬉しさがこみ上げる。麗音は何も言わずににっこりと笑って自分の分を食べ始めた。文句なし。そんな顔をしていた。
 一口。さらに一口。俺が喜んでいる間、雪姫ちゃんは無我夢中にシチューを食べる。
「あったかい。あったかいよぉ……」
 気がつけば食べ続ける彼女の目から涙が溢れていた。
「雪姫ちゃん、どうかしたの? 」
 麗音が雪姫ちゃんに同じようにしてみろと自分の顔の目を指差す。そのとおりに雪姫ちゃんは顔を触り、泣いていたことに気がついた。
「あ、あれ? どうして……おいしいのに」
 涙を流しながらもシチューを食べることは止めようとはしない。今はそうすることが必要だとばかりに。食べるたびに流れる涙。この涙は凍っていた彼女の心が解けた水じゃないか。詩人のような考えが浮かぶ。
 降りしきる雪の中、俺たち三人は暖炉の暖かさと、食事の暖かさと……なにより久し振りに得た雰囲気の暖かさに浸っているのだった。

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小椋 叢葦

Author:小椋 叢葦
おぐらそういと読みます。
頻繁に名前が読めないと突っ込まれます。
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Fools parade.(水無瀬アズマ) MistySpellの相方、水無瀬アズマのブログ。コイツの相方やってて大丈夫かと時たま不安になるけど、今日も頑張ってます。

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