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  10 ,2020

徒然叢

つれづれと記される雑記ばかりのブログ。たま~に執筆していたりします。

09

Category: MistySpell

Tags: ---

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ユキノシタ 10話

 とりあえずズボンの破れ――しかも破れていたのはど直球で尻のところだった――をジャンパーを腰に巻くことで隠した。少々……かなり寒いが恥に比べればマシだろう。チャーミングにトランクス出しながら歩いてたら国家権力に強制連行されかねない。女子高生らしき少女も一緒にいるのだ。言い逃れは出来ないだろう。
 互いの気持ちを落ち着けるため、ひとまず目の前にある公園のベンチへと腰を下ろした。普段なら老人が走っていたりするのを目に出来るのだが、さすがに雪の降った次の日。そんな酔狂な老人はいなかった。
 ちょっと待っててと雪姫ちゃんに一言かけて、俺は自動販売機へと向かう。この寒さの中ずっと歩き続けていたのだ。さぞかし体も冷えていることだろう。ホットのコーヒーとレモンティー、それと隣にあったタバコを買うとさっさとベンチへと戻る。
「どっちがいい? 」
「え、あ、じゃあ……コーヒーで」
 紅茶を選ぶと思っていたが意外にもコーヒーのほうだった。別に俺としてはどちらでも構わなかったので、言われたとおりにコーヒーを差し出す。
「熱いですね」
「そりゃまぁホットだからね」
「ゴチになるです」
 幼さの残る可愛らしい笑みを浮かべ、缶コーヒーの温かさを得るように手のひらで包み込む。温かさを堪能したらしく、ちょっとするとプルを開けようと悪戦苦闘し始めた。なんでこの子はこんなにも容量が悪いのだろう。
「貸してみな」
 すでに飲み終わってしまった俺は彼女から缶コーヒーを奪う。開けるのに難しいことなどなく、彼女が悪戦苦闘していた理由もわからないほど簡単に開いてしまった。おぉ!! と驚かれるほどのことなんて何も無いはずだ。
「ありがとうございますです」
 俺から受け取るとちびちびとコーヒーに口をつける。その無駄に細かい動作がどこか小動物を彷彿とさせた。なんというかハムスターが向日葵の種食ってる感じ。さすがに頬袋に貯めるようなことはしてないが。
 じっとしてるのも暇なので、さきほど一緒に買って来たタバコを取り出し火をつける――と思ったが火がない。わざわざライターを買いに行くのも億劫だ。仕方ないのでポケットにつっこむ。少々乱暴になるのはご愛嬌だろう。突っ込むと同時に何か抵抗があった。何かと取り出してみれば、それは俺が捜し求めていたライターだった。どうやら昨日吸ったときに仕事着のポケットに突っ込んだままだったらしい。
 ――いいことしたおかげなのか。
 勝手な解釈を入れてありがたくタバコを吸う。ゆらゆらと漂う紫煙。規則性もなさそうなそのゆらめきになぜかタバコを吸う以上に癒された。
「あのですね……」
 先に口を開いたのは雪姫ちゃんだった。
 まだ飲み終わってないのか大事そうに缶コーヒーを持ちながら、こちらを見る。
「どうしてわたしなんかを追いかけてきたんですか? 別にあのまま放っておいてくれてもよかったですのに」
「別に見返りとかを要求してきたわけじゃないんだよ。そもそもさ、雪姫ちゃんどこにいくつもりだったの? 」
「……お友達のおうちなんか頼ってみようかと思っていた次第でありまして」
「それだったら昨日の時点でしてたんじゃないの? 」
「……………………誰も泊めてはくれなかったです。事情話すとみんな顔色変えちゃって……でも仕方ないです。わたしもそんな人が訪ねてきたら、快く迎えてあげるとこなんて出来ないかもしれないですから。だって両親が蒸発して、身寄りも無い住所不定少女ですよ。その子がよくても、やっぱりおとうさんおかあさんが反対するでしょうし……無理があるですよ」
「……人情ってなんだろうな」
 気持ちを落ち着かせるため、大きくタバコを吸い込む。昨日久し振りに吸ったくせに、なんだかすっかり順応しているのが嫌だった。でも……気を紛らわせるのには最高だった。
「人情とか人の優しさを疑う気はしませんよ。でもですね、やっぱり世の中は辛いです」
 気がつけば彼女は涙を流していた。笑ったまま。
 表情だけでも強がり――けれど心は強がれなくて。16歳。社会の冷たさを体験するには早すぎる。なんで彼女はこうなってしまったんだろうか。社会が悪いのか、人が悪いのか。そんなことはしらない。知りたくも無い。でも……この瞬間、俺は彼女を抱きしめた。君は一人じゃない。この世の中にいてもいい存在なのだと知らせたくて。
 雪姫ちゃんも俺の――人の温もりを確かめるように抱きついてきた。強く、ぎゅっと強く。
 朝7時ちょっと前。人前で抱き合うには早すぎる時間。それでも……羞恥心なんかより、この子を安らかにしてやるほうが俺にとっては重要だった。

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小椋 叢葦

Author:小椋 叢葦
おぐらそういと読みます。
頻繁に名前が読めないと突っ込まれます。
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移転作業完了しました。更新ペースはまったりですが、よければおいでませ。
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